2019/07/02 06:00
前回の続きです。

まだお読みでない方は、こちらをどうぞ。
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【とりかへばや物語 〜ジェンダーとセックスの狭間で揺れ動く男装の麗人〜 (後編)】

3.第三巻

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(略系図)

・女中納言、吉野に暇乞い
・女中納言、宰相中将に連れられ宇治に隠れ、女姿となる
・女中納言失踪により四の君密通の噂広まる
・右大臣、四の君を勘当し、宰相中将は宇治と四の君の元を行き来
・左大臣、嘆きのあまり倒れる
・男尚侍、男姿となり女中納言探索に旅立つ
・男尚侍、宇治で女中納言を垣間見るも消息せず
・男尚侍、吉野の宮を訪ね吉野にとどまる
・女中納言、男児を出産
・宰相中将、四の君の介護にかかりきりとなる
・女中納言、吉野に消息し男尚侍が返信する
・男尚侍と女中納言、宇治で再会
・左大臣に夢のお告げ
・四の君、女児を出産
・女中納言、息子を残し吉野へ
・男尚侍と女中納言、入れ替わりの準備
・男尚侍、吉野姉君と契る
・宰相中将、女中納言失踪を知る
・右大臣、四の君の勘当を解く
・男尚侍と女中納言帰京し男尚侍は今大将、女中納言は今尚侍に
・今大将、参内、四の君と契る
・宰相中将、帰京し今大将に会うが別人と気付かず


失踪を決意した女中納言は、吉野を訪れ吉野の宮と姉妹に別れを告げに行き、吉野の宮は女中納言を励まし唐から持ち帰った薬を渡します。

女中納言は周囲にそれとなく別れを告げた後、宰相中将とともに牛車に乗り宇治へ。

道中、幼い頃から親しんできた横笛(男性の楽器)をこれが最後と吹きたてる女中納言の胸中と、その音色に合わせて拍子を取りながら歌う宰相中将の気楽さが対照的です。

宇治に着いた女中納言が男装を解き女姿になった頃、京は女中納言の失踪に騒然としていました。

そして、「失踪の原因は四の君の密通」との噂が流れ、四の君の父親の右大臣は激怒し四の君を勘当します。

宰相中将は四の君の世話もする必要に迫られ、宇治と京都を慌ただしく行き来。

女中納言の父親の左大臣は心痛のあまり倒れ、男尚侍は父のため男姿に戻り女中納言を探すことを決意します。

男尚侍はひとまず手がかりのありそうな吉野を目指しますが、途中で立ち寄った宇治で偶然女中納言を目撃。

その姿が女中納言に似ていることに気付き、その美しさに心惹かれながらも、はっきりとしたことが分からないままその場を去ります。

男尚侍を目撃した女房達(目の前にいる女中納言の正体は知らない)が、戻って来た宰相中将に「失踪したと噂の女中納言を見た」と報告、不審に思った宰相中将が女中納言に問いただし、「もしかしたら私の魂が身を離れていたのでは」と返答。

女中納言は、男社会での生活への執着を捨てきれていないことをさりげなく告白しているのです。

男尚侍は吉野に到着、七月末に女中納言から消息があるはずだと聞き、それまで吉野に滞在して待つことに。

女中納言は宇治で男児を出産、安心した宰相中将が四の君の介護に専念するようになり、女中納言は宰相中将の留守中に逃亡計画を進めます。

吉野の宮宛に女中納言が手紙を書き、それを男尚侍も見ることに。

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(美しさには抗えませんでした。使者は居場所の情報を漏らします)

使者からの情報で宇治にいることが分かり、男尚侍は使者に手紙を渡し自分が吉野にいることを知らせます。

男尚侍は宇治を訪れ、女中納言と再会。

男尚侍は女中納言にこれまでの経緯を聞き、「自分は里下がりした状態でこっそり出てきたのでごく親しい人以外はこの事実を知らない。自分の代わりに邸に戻って暮らし、宰相中将と正式に結婚すればいい」と提案します。

しかし女中納言は宰相中将に愛想をつかしているため、「宰相中将に知られず身を隠したい。父上にも出産のことは言わないでほしい」と答え、男尚侍はそのまま京の左大臣邸に戻りました。

その頃左大臣の夢で、「天狗の祟りで子ども達が男女の性質を入れ替えたように育ったが、長年の祈祷のおかげでそれぞれが元に戻った」とのお告げが。

戻って来た男尚侍に会った左大臣は「きょうだいが入れ替わって暮らせばよい」と言いますが、男尚侍は「ずっと引きこもっていたから今更宮仕えなどは」と返答を保留。

女中納言は、「息子を連れて逃げることはできない、だからといってこの子のために人生を無駄にするわけにはいかない」と男装時代の名残から心強く考え、息子を置いたまま逃げることを決意します。

宰相中将が久しぶりにちらりと姿を見せに来て、女中納言はいつもよりつくろった姿で応対。

これは宰相中将に心配されることがないようにということもありますが、「最後だから自分の最も美しい姿を見せたい」という気持ちの表れかと思います。

髪は吉野の宮からもらった毛生え薬により身長より少し足りないくらいに伸び、悪阻で痩せた顔も元に戻って輝くように美しい女中納言に宰相中将は慰められますが、四の君危篤の知らせが来て慌てて京に舞い戻ります。

翌朝、四の君が出産したと聞き女中納言はこの隙に逃げることを決め、息子を乳母に託すと夜遅く迎えに来た男尚侍に連れられて吉野へ。

時期は、八月中旬の満月の頃。

『竹取物語』のかぐや姫の昇天シーンと、おのずから情景が重なります。

吉野到着後きょうだいはそれぞれ入れ替わりを決め、お互いにいろいろ教え合って準備を進めます。

その間、男尚侍は吉野姉君と契り、姉君は当惑するものの吉野の宮はこれを黙認。

宇治では戻って来た宰相中将が、女中納言が姿を消したことを知り嘆きますがどうしようもありません。

四の君は病状のひどさから父親に介護されるようになり、勘当も解かれます。

男尚侍と女中納言は帰京して居場所を入れ替え、男尚侍は今大将として、女中納言は今尚侍として過ごすことに。

参内した今大将が帝の前に出ると、帝は今大将のわずかな変化を成長と捉え喜びます。

今大将は四の君の元に通うようになり契りを結びますが、四の君は夫の突然の変貌を受け入れられず呆然とするだけ。

その後今大将は正体が露見しないよう夜だけ通い続けますが、四の君は以前の夫と違うことに気付き耐えかねて歌を詠みます。

見しままの ありしそれとも おぼえぬは わが身やあらぬ 人や変はれる

以前逢ったあなたとは思えないのは、私が変わったからなのかあなたが変わったからなのか、という内容の歌。

ひとつにも あらぬ心の 乱れてや ありしそれにも あらずとや思ふ

今大将は、あなたが宰相中将を思うがゆえの心乱れのせいだろうと、かつての女中納言と雰囲気を似せて応えます。

宰相中将は今大将が参内したことを人づてに聞き、今大将に会うため帰京しますが今大将は宰相中将を近付けないまま退出。

今大将が以前の女中納言と別人とは思いもよらない宰相中将は、恨みごとを綴った手紙を今大将に贈り、今大将は誤解させたままの方が秘密を守りやすいと判断し今尚侍に返事を書かせたのでした。


4.第四巻

・今尚侍参内し、女東宮懐妊の処置を相談
・今尚侍、女東宮と今大将を引き合わせる
・帝、今尚侍を垣間見
・女東宮、男児を出産
・女東宮、容体悪化し朱雀院に退出
・帝、今尚侍と契る
・今大将、吉野の姉妹を二条の新邸に迎える
・四の君、今尚侍懐妊
・宰相中将、今大将が男であることを知る
・今大将、宰相中将と吉野の中の君を結婚させる
・四の君、男児を出産し、続いて今尚侍も男児を出産
・宰相中将、宇治の若君を吉野の中の君に預ける
・女東宮が位を退き、今尚侍腹の若宮が東宮に
・今尚侍、中宮になる
・数年後、今尚侍は二宮、三宮、姫宮出産
・宇治の若君、童殿上し今尚侍と話す
・若君達元服、帝が退位し東宮即位


今尚侍は、女東宮のもとに参内しますが、この時女東宮は今大将との子(男尚侍時代にできた子)を身ごもっていました。

女東宮の出産をどう処置すべきか女房から相談された今尚侍は、男性として過ごした経験から合理的な対処法を思案し、女東宮の相手は今大将であると話します。

ある意味では真実、ある意味では嘘の今尚侍の話を聞いた女東宮は混乱し泣く他になく、今尚侍も一緒に泣きながら添い寝するしかない状態。

今尚侍は夜中にこっそり今大将と女東宮を対面させます。

今大将はこれまでの経緯を包み隠さず告白、女東宮は今大将が自分のことをさほど愛していなかったのではと気付き苦悩。

思い悩む女東宮の様子を病気と思った女房達が朱雀院や帝に報告し、病気見舞いに訪れた帝は今尚侍の姿を目撃して心乱れます。

帝は今大将を呼び出し今尚侍の元へ手引きを要求しますが、軽々しいことを嫌う今大将は即答せず帰宅して左大臣に相談。

表立って入内させてはどうかという今大将の言葉に、左大臣は「今まで固辞してきたことをひるがえしては具合が悪い、なりゆきに任せよう」と提案し、今大将も過去の宰相中将との関係も考えて納得します。

女東宮は男児をひそかに出産し、その子はこっそりと左大臣邸に引き取られますが、女東宮は容体悪化のため朱雀院に退出。

一人で宮中に残ることになった今尚侍の元に帝が近付き、契りを結びます。

帝は間近で見る今尚侍の美しさに惹かれる一方、今尚侍が処女でなかったことを不審に思い様々な憶測を巡らせながら歌を詠みかけます。

三瀬川 後の逢瀬は 知らねども 来ん世をかねて 契りつるかな

三瀬川というのは三途の川のことで、女性は最初に契った男性に背負われてそこを渡ると信じられていました。

帝は、最初の男でないから三途の川では会えないけれど、来世で会おうと約束しているのです。

行く末の 逢瀬も知らず この世にて 憂かりける身の 契りと思へば

今尚侍は、来世どころか今後の逢瀬も定かではないと応えるのみ。

この関係は今大将と左大臣も知ることとなり、帝は公然と今尚侍を寵愛するようになります。

今大将は吉野の姉妹を新邸に迎えました。

その少し前に四の君は今大将の子を懐妊、続いて今尚侍も帝の子を身ごもります。

宰相中将は今大将に相手にされない寂しさから四の君との仲を復活させようと思い立ち、手引きしてくれていた女房を呼び寄せ、そこで四の君懐妊の事実を知ります。

さらに宰相中将は、宮中で今大将が女性の元から朝帰りする現場に遭遇、今大将が男性であったことを確信して呆然とします。

今大将は宰相中将を吉野の中の君の婿にしようかと考えていたため、後日宰相中将を邸に呼び寄せ、中の君と引き合わせます。

宰相中将はかつての女中納言と会えることをわずかに期待していたものの、うまくはぐらかされてしまいました。

しかし中の君の魅力は女中納言に通う部分もあり、心慰められた宰相中将は宇治で生まれた息子を中の君に預けようと思うように。

四の君と今尚侍はうち続いて男児を出産、女東宮が退位して後は今尚侍が産んだ若宮が東宮となりました。

それに伴い、今尚侍は立后、今大将や宰相中将も出世していきます。

数年後、今尚侍は三人の男宮と一人の姫宮を産み、宇治の若君が童殿上して宮中に顔を出すように。

ようやく生き別れていた息子に会える機会を得た今尚侍は、若君を近く呼び寄せて「あなたのお母様を私は知っている。いつか会わせてあげるから」と語ります。

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(神妙にしながら考えを巡らせる宇治若君がいじらしいシーン。一部、装束の文様描き間違えましたがご容赦ください)

その光景を覗き見していた帝は、今尚侍の相手が宰相中将だったと合点し、「悪い男でなくて良かった」と安堵。

さらに数年が経過、帝は譲位し今尚侍腹の東宮が即位、四の君が最初に産んだ姫君が藤壺女御として参内するなど大団円に。

宰相中将はかつての女中納言を探し出せず、時折嘆いているさまが描出されて物語は終わります。


今尚侍となった女中納言は女性としての最高位といえる国母(天皇の母)となりますが、それは彼女自身が望んだ幸せとは違ったものでした。

男性に身をゆだねる生き方より、自分で道を切り開く生き方の方が彼女には合っていたようです。

たとえ息子がいても宰相中将から離れることを決意したのは、彼女らしい前向きな選択でした。

しかしながら、母親としての情愛が薄いわけではなくずっと宇治若君を気にかけていたことも分かります。

女として、社会人として、母として…それらの理想のあり方を両立することができなかった社会の構造が、彼女を苦しめることとなったのでしょう。

今大将の身勝手さに翻弄された女東宮のように、女性が被害者になることも多かったこの時代。

それでもできる限り自分らしく生きたいと願い続けたのが、世にも美しい男装の麗人、女中納言の真の姿だったといえるのではないでしょうか。

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コメント(4)
acoさん、コメントありがとうございます。

万葉集は歌の数が多くて忘れていましたが、そんなのありましたね。お詳しい。

この歌は「誰そ彼」がそのまま「誰、あなたは?」の意味ですね。

かはたれどきというのもあります。元々は薄暗い時間帯ということで夕方も指す言葉でしたが、たそがれどきという言葉が出来てからは、かはたれどき=明け方、になりました。

古今和歌集、小野小町の歌ですね。彼女は夢の歌人と言われるほど夢が好きで。

「夢路には 足もやすめず 通へども うつつに一目 見しごとにあらず」の方があの作品のイメージに近いですね。夢で足しげく通うなんて、男性の立場での歌かしらと思うのですが、人目のない夢だからこそ女性も通うことができると解釈した方が素敵。

私は断然、この監督の前作が観たくなってきました。

by danngo 2019/08/15
誰そ彼と 我をな問いそ 九月の露に濡れつつ 君待つ我を

ですね!
たそがれどき ではなく かはたれどき もあるんですね〜
夕と朝でしょうか??

古今和歌集の
「思ひつつ寝ればや人の見えつらむ 夢と知りせば覚めざらましを」
から 入れ替わるタイミングを思いついたというのだから

この監督 古典が好きなのかもしれないですね〜
前作の「言の葉の庭」でも 万葉集を引用しているそうです。

あんなにヒットした時に見ていなかったのに
すごく見たくなってきました(笑)

aco
by aco 2019/08/15
acoさん、コメントありがとうございます。

『君の名は』観ましたよ。まさか『とりかへばや』から着想を得たとは、思いもよりませんでした。

内面と外見の性別が逆になり、また戻るというところは、確かに共通点がありますね。

古文関連としては、『君の名は』で「かはたれ(彼は誰)どき」という言葉を扱っていることが印象的でした。

『万葉集』あたりの作品にしか見当たらない言葉で、マニアックだなーと思ったのを覚えていますw
by danngo 2019/08/11
こんばんは。

danngoさんの分かりやすい解説から 離れてしまうのですが

映画を見ていないので 内容を詳しく知らないけれど、
「君の名は」はとりかえばやからヒントを得た
と 先ほど新海監督がテレビで話していて驚きました。

入れ替わる部分だけなのか それ以外にも何か引用してるのか
ちょっと気になってきました。

aco
by aco 2019/08/10