星の王子さまが嫌いだった話 ―― 王子さまとの再会に寄せて
- 気象予報士として講演・執筆を行うかたわら、野菜たっぷりの作り置き料理を代行する出張料理人としても活動中。野菜ソムリエ、食育インストラクター、薬膳マイスターなどの資格や、東北~関西まで各地に住んだ経験から、健康や美容にうれしい食材や、いざという時に備える災害食にも詳しい。 もっと見る>>
皆さんは、子どもの頃の思い出の絵本と、何かの拍子に再会したことはあるでしょうか。
それも、かつて好きだった絵本を我が子にも読んであげるような意図した再会ではなく、あまり好きではなかった絵本に偶然出くわすような……。
今回綴るのは、世界で1億冊以上も刷られ、初版から半世紀以上経った今もなお世界中の人から愛される名作『星の王子さま』と私の、邂逅のストーリーです。
星の王子さまとの再会
ある日、スケジュールの入れ方を間違えて夕方まで何も食べずに働くことになってしまったその日の日没間際、なんでもいいから食べ物と暖かい飲み物にありつきたいと入ったカフェで、懐かしい絵本と再会しました。
お客さんがコーヒーを飲みながら読めるようにと客席に置かれた本棚の中にあったのは、世界の200以上の言語に翻訳され今なお読まれ続けている名作、『星の王子さま』です。
星の王子さまが嫌いだった子ども時代
子どもの頃、星の王子さまが嫌いでした。
正確に言うと、『星の王子さま』の登場人物である王子さまが嫌いなのではなくて、作者のサン=テグジュペリが嫌いでした。
というのも、『星の王子さま』には、「大人はこうだけど子どもはこうだ」とか、「大人はこう考えるけど子どもはそうじゃない」といった表現がたびたび出てくるからです。
当時の私は「子どもはそんなに型にはまった考え方はしないし、そもそもそうやって何でも型にはめてカテゴライズすることこそが大人の特徴だ」と思い、「この人は絵本を書くくせに子どものことを何もわかっていないなんて、本当に酷い人だ」と憤慨していました。
結局それ以降、二度と読むことはなく、かといって忘れ去ることもなく、まるで喧嘩別れでもしたようにもやもやした気持ちだけが残っていました。
しかし実際に自分が大人になってわかったことは、子どもの頃の感覚や感受性をすべて覚えたまま大人になるのは不可能だということです。
もちろん個人差はあって比較的よく覚えている人とそうでない人がいますが、よく覚えている人でもやはり限界があります。
それを「仕方ない」で済ませることがいいかどうかは別として、少なくともこの点についてサン=テグジュペリを責めるのは可哀想だと、今では理解できるのです。
そんなことを考えながら時を超えて邂逅した絵本を手に、まるで喧嘩別れしていた友人と仲直りをできたような、そんな心地になりました。
今だから理解できること
もう一つ、今ならサン=テグジュペリについて理解できることがあります。
それは、もし私が当時の彼と同じ状況に立たされたら、やはり同じことをしたと思う、という点です。
この点については、当時の時代背景について少し説明が必要かもしれません。
サン=テグジュペリが生きたのは1900年代の前半。
第二次世界大戦中、祖国フランスはドイツ軍に攻め込まれフランス国内でもユダヤ人迫害が行われ、彼の友人も弾圧の対象となっていました。
『星の王子さま』は当時アメリカに亡命中だったサン=テグジュペリが、ユダヤ人ジャーナリストである友人レオン・ヴェルトのために書いたとされています。
自分には、祖国の友人を助け出すことも、ましてやナチス・ドイツの侵攻を止めることも世界の戦争を止めることもできない。よしんば戦争が早期に終結したとして、友人が負った心の傷を完全に癒してあげることもできない。
もし私自身が、祖国に残してきた友人が戦争と迫害に苦しんでいることを知ったら……、そんな状況に立たされたら、私もきっと、その友人のために物語を書いたと思うのです。せめて友人の心に温かい毛布を掛けてあげたいと、強く願ったに違いないのです。
つらいときは逃げてもいい
実は『星の王子さま』は、現実逃避の物語だと批判されることもあります。
確かに、この本が友人の飢えや寒さを軽減するわけではないし、(一部で戦争批判と取れる比喩は認められるものの)祖国が直面する問題を解決するわけでもありません。
ただ、厳しい現実から逃げているだけ。
そう評価されることもあります。
でも、逃げたっていいんです。
必要なときは全力で逃げればいいんです。
必死に逃げて逃げて、走り続けたその先に、生きる希望を見つけられるかもしれないから。
サン=テグジュペリが短い一生を閉じた年齢に近づいた今、そう思うのです。
皆さんは、子どもの頃に読んだ本に再会した思い出はありますか?
あるいは、嫌いだった本や興味のなかった本が、大人になってから味わい深くなったことはあるでしょうか。
絵本の思い出、ぜひ聞かせてください。
■この記事を書いたのは・・・サンキュ!STYLEライター植松愛実
本業の気象予報士と副業の料理人、2足のわらじを履く主婦。サンキュ!STYLEでは、身近な食材でできる時短作り置き料理やパーティー料理、簡単に彩りを増やせる料理のコツや、いざという時に備える災害食まで、「食」に関する情報を中心に発信。