「秋の七草」間違えずに全部言える?古文教師の教養講座
国語科の教員免許を持ち、古文教師でもあるdanngoです。
秋が深まるとともに時々耳にする「秋の七草」。
「春の七草」に比べるとなじみがなく、全部間違えずに言える人は少ないのではないかと思います。
誰かに聞かれて間違ったことを言わないよう、ここで確認してみませんか。
「秋の七草」は見て楽しむもの
秋の七草の由来は、『万葉集』に入っている山上憶良(やまのうえのおくら)の歌二首。
秋の野に 咲きたる花を 指(および)折り かき数ふれば 七種(ななくさ)の花
萩の花 尾花葛花 撫子の花 女郎花 また藤袴 朝貌の花
上の一首で秋の野に咲く花を数えると七種類あることを言い、下の一首でその花の名前を挙げています。
以下、具体的に花を見ていきましょう。その花を詠んだ和歌も紹介します。
萩(ハギ)
マメ科の落葉低木。
草ではありませんが、憶良が詠んだ「七種の花」というのは「七種類の花」の意味なので間違っているとは言えないでしょう。
花は白いものやピンクに近い赤紫のものなどがあります。
宮城野の 元あらの小萩 露を重み 風を待つごと 君をこそ待て (詠み人知らず)
【意味】宮城野に咲く根元がまばらな小萩は露が重いのでそれを吹き飛ばす風を待つように、私もあなたを待っていることですよ。
尾花(ススキ)
尾花は「オバナ」と読み、尾のように見える花ということでススキのこと。
イネ科の多年草です。
秋の野の 草のたもとか 花すすき 穂にいでてまねく 袖と見ゆらむ (在原棟梁)
【意味】秋の野の草の袂なのだろうか。すすきの花が穂を出して人を招く袖と見えるようだ。
葛(クズ)
マメ科のつる性多年草で、他の植物の上にかぶさるようにして成長します。
赤紫色の花房が、下から上に伸びるようにつきます。
葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を 行きし人あり (釈超空)
【意味】葛の花が踏みにじられて、色は鮮やかだ。この山道を先に行った人がいるのだ。
撫子(ナデシコ)
ナデシコ科の多年草。
古くから日本に自生するカワラナデシコの場合、花びらの切れ込みが写真のものより深く繊細な印象を与えます。
我のみや あはれと思はむ きりぎりす 鳴く夕かげの やまとなでしこ (素性法師)
【意味】私だけがしみじみといとおしく思うのだろうか。こおろぎが鳴く中で夕日を浴びて咲く大和撫子を。
女郎花(オミナエシ)
オミナエシ科の多年草。
背が高く優美な印象で、古くから女性にたとえられてきました。
名にめでて 折れるばかりぞ 女郎花 我落ちにきと 人に語るな (僧正遍照)
【意味】「女」がつく名前を可愛いと思って折っただけなのだよ。女郎花よ、私が僧なのに女に惹かれて堕落した、いや馬から落ちたなどとは人に語ってはいけないよ。(落馬して詠んだ歌という古い注があります)
藤袴(フジバカマ)
キク科の多年草です。
葉や茎に芳香があり、香料や薬用に利用されてきました。
宿りせし 人の形見か 藤袴 忘られがたき 香ににほひつつ (紀貫之)
【意味】泊まっていった人の形見だろうか。藤袴は、忘れることができない香りに匂い続けているよ。
朝貌(キキョウ)
朝貌は「アサガオ」と読みますが、現在知られている「朝顔」ではなく「桔梗(キキョウ)」だとされています。
キキョウ科の多年草で、星のような形の花が特徴。
「きちかう」とも呼ばれました。
あきちかう のはなりにけり 白露の おける草葉も 色かはりゆく (紀友則)
【意味】野は秋が近くなってしまった。白露が上に置いている草の葉も色が変わっていっている。(和歌の中に「きちかうのはな(桔梗の花)」という語が隠れている言葉遊びの歌)
間違いやすい花もある
いかがでしたか。
トップ画像の花は野生のリンドウ、2枚目画像にキクを混ぜて入れてみましたが、これらは秋の花ではあるものの秋の七草ではありません。
これらの花の名前を間違って言いやすいので、注意しておきましょう。
私は、五七五のリズムで覚えています。
ハギキキョウ クズフジバカマ オミナエシ ススキナデシコ 秋の七草
これを繰り返し口ずさんでいると頭に入ってきます。
頭文字を組み合わせて語呂合わせを考えるのもいいでしょう。
庭園や花屋で見かけたら、話題にしてみるのも楽しいかもしれません。
※参考文献
『小学館の図鑑 NEO 植物』小学館、2002年
『新編国歌大観 第一巻 勅撰集編 歌集』角川書店、1983年
『岩波現代短歌辞典』三枝昴之ら編、岩波書店、1999年
◆記事を書いたのは・・・danngo
中高国語科教員免許を持つ、活字中毒気味のアラフォー。高学歴・高血糖・高齢出産の三高ライター。「家事は化学、子育ては文学」を信条としている。