台風にも個性あり!予報士はどこに注目する?初夏の台風の特徴とは

2023/05/27
  • 気象予報士として講演・執筆を行うかたわら、野菜たっぷりの作り置き料理を代行する出張料理人としても活動中。野菜ソムリエ、食育インストラクター、薬膳マイスターなどの資格や、東北~関西まで各地に住んだ経験から、健康や美容にうれしい食材や、いざという時に備える災害食にも詳しい。 もっと見る>>

皆さんはテレビや新聞で台風情報を見る時、どこに注目するでしょうか。
台風の位置?中心気圧?それとも…??
じつは台風にも個性があり、気象予報士は季節ごとに様々な点に着目します。そしてそれが、"正しく"身を守るために必要でもあるのです。
今回は、気象予報士と料理人の2足のわらじを履くライター・植松愛実が、ニュースを見る目がちょっと変わる、気象予報士の仕事の裏側をお伝えします。

気象予報士は「梅雨前線」から目を離さない

台風の話をしていたはずなのに、いきなり梅雨前線…?と思われたかもしれません。
しかし、これが最重要といっても過言ではないのです。
というのも、日本付近に梅雨前線がある場合、台風が非常に離れたところにあっても命にかかわるレベルの大雨が降るおそれがあるから。

2017年7月、台風周辺から流れ込んだ暖かく湿った空気で梅雨前線付近は大雨となり、東北を中心に記録的な大雨に。台風3号はまだ台湾付近にあり、梅雨前線とは1000キロほど離れていた。(気象庁HPを元に筆者作成)

たとえば本州付近に梅雨前線があって、台風がはるか南の海にある場合。
もし台風と梅雨前線との距離が1000キロくらい離れていても、台風周辺の暖かく湿った空気が梅雨前線付近まで送り込まれ、大きな災害につながるような大雨になるおそれがあります。
「梅雨前線+台風」は初夏の雨の最悪パターン。
そのため台風の影響を考える時、気象予報士は必ず梅雨前線の位置に注目します。

ちなみに1000キロと言われても遠すぎて想像しづらいですが、たとえば東京から南に1000キロ行くと小笠原諸島、西に1000キロ行ったら韓国です。

緯線・経線が引かれた地図なら、緯度または経度で10度分が約1000キロなのでだいたいの見当がつく。この図ではわかりやすいように10度おきに緯線・経線を描いている。(筆者作成)

ここまで読んで「うちの地域はまだ梅雨入りしていないから大丈夫」と思った人もいるかもしれませんが…、じつは梅雨入りしているかどうかはあまり関係ありません。
例年沖縄が梅雨入りするのが5月前半ですが、沖縄さえ梅雨入りしていればもう、梅雨前線はいつでも本州に近づけるのです。
(前線が長く停滞しなければ梅雨入りしないだけで、一時的に北上することはできる。)

そのため、気象予報士は常に「梅雨前線+台風」という最悪のパターンを念頭に置いています。

最盛期を過ぎても…"弱っても「台風」"

台風はある一定以上温かい海の上にいる時、発達したりその勢力を維持したりできます。
つまり、基準より冷たい海の上ではどんどん衰弱していくわけです。

日本の本州付近の海域が1年でもっとも温かくなるのは夏~秋なので、初夏はまだまだ海水が冷たい状態。
台風は日本のかなり南で最盛期を迎えたあと、本州に近づくころには絶賛衰弱中です。
ということは、初夏なら台風が上陸したとしても衰弱しかかっている台風だ、ということになりますが…じつはそれでも油断できないのです。

2022年4月に接近した台風2号は、沖縄接近時すでに発達のピークから4日が過ぎていたが依然暴風を伴っていた。(気象庁HPを元に筆者作成)

そもそも「台風」とは、中心付近の風速が17.2メートル以上の熱帯低気圧のことですから、どんなに弱っても「台風」であればすべてその風速の条件をクリアしています。
どのような強さの風かというと、人は風に向かって歩けないし、看板やトタン板がはすれ始めるし、高速走行中の車が風に流されてしまうようなレベル。
つまり危険です。

霧の中の一本の木、強風に苦しむ
SingerGM/gettyimages

さらには、台風の出身地は熱帯ですから、どんなに弱ってもその熱帯の暖かく湿った空気を大量に持っています。
温かく湿った空気は、積乱雲の材料。
つまり大量の積乱雲をつくって発達させるような材料を持ち込んでくるわけですから、雨にも警戒が必要です。

位置と強さに惑わされないで

ニュースや天気予報で台風情報が流れると、台風が今どこにいて、いつ自分の住む場所に最接近するかや、台風の中心気圧がいくつになったかに注目されがち。
しかしすでに解説したように、台風から1000キロ離れていても命にかかわるレベルの雨が降り、どんなに衰弱していても危険な風が吹くおそれがあります。

やみくもに台風の位置や強さを気にするのではなく、実際に起きる現象(どのくらい雨が降りどのくらいの風が吹くか)に注目して、正しく身を守りましょう。

■この記事を書いたのは・・・サンキュ!STYLEライター植松愛実
本業の気象予報士と副業の料理人、2足のわらじを履く主婦。サンキュ!STYLEでは、身近な食材でできる時短作り置き料理やパーティー料理、簡単に彩りを増やせる料理のコツや、いざという時に備える災害食まで、「食」に関する情報を中心に発信。

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