金属造形作家・中村洋子さんグループ展へ/EMPTY INSIDE(エンプティ インサイド)
美術大学出身のSTYLEライターの堀江麻衣です。
2024/10/19にスタートした「EMPTY INSIDE(エンプティ インサイド)」という、金属造形作家の中村洋子さんが出展しているアート展示を見に行って参りました。
本日の記事は、このグループ展のレポートをさせていただきます!
過去に書いた中村洋子さんの展示のレポートと、ご自宅に伺った際の記事も併せてご覧いただければと思います↓
今回の展示のタイトルは「EMPTY INSIDE(エンプティ インサイド)」というものなのですが、和訳すると「中身が空っぽ」という意味です。
「作品の中が空洞」という共通項のある3名の女性アーティスト、中村洋子さん、池田ひとみさん、田代葵さんが出展されています。
中村洋子さん作品:金属メッシュの表情が変わる
「EMPTY INSIDE(エンプティ インサイド)」が行われているのは、東京・神楽坂駅から徒歩5分の場所にある「eitoeiko」というアートギャラリー。
大通りを一本入った住宅街にあるギャラリーの扉を開けると、正面に見えたのは「中村洋子(なかむらようこ)」さんのこちらの作品でした。
金属メッシユを使った作品を発表しているアーティストの、中村洋子さんです。
*写真の掲載許可をいただいています。
金属メッシュを炎で焼き付けたり、陶土を塗って焼き締めたりすることで出てくる、様々な表情に見入ってしまいます。
じわじわと肌に広がり続けるような焼きあとや
ぎちっと塗り固めて動きを制限したような、ボロボロとした陶土の表面が
素のままの金属メッシュ素材とはまったく違う、硬さや柔らかさをつくり出しています。
ふわりと宙に浮くこちらの作品は
布をくるっと丸めたような軽やかさですが、使われているのは建築用の素材である金属メッシュなので、曲げるのにも力が要ります。
身体を使って造った作家の意図が確かにあるばずですが、中村洋子さんの作品には、金属メッシュ自身がすーっとこの形に戻ったような、自然とあるべき形になった「その瞬間」を固定したようなおもしろさがあります。
池田ひとみさん:ギャップと毒
こちらは「池田ひとみ」さんの作品。
レース編みだけで立体化させた猫のオブジェですが
かわいい見た目とは裏腹に、「毒のある要素」を持ち合わせていました。
「コロ猫」という名前のついたこのシリーズ、レース編みの模様が、「コロナウイルス」の形だということです。
池田ひとみさんご本人の話では、
「可愛がっていた近所の猫が、おそらく猫のコロナだと思われる症状で亡くなったときのこと」
を思って作られたとのこと。
「コロ猫」の意味を知るまでは、ただただ可愛らしいレース編みの作品に見えましたが
模様の意味を知ったあとでは、レース編みの表面が身体に広がる病巣のように見えて、触ることもはばかられます。
「中身が空っぽ」なことで他の要素を排除して、より明確にこのときの「猫が置かれている状況」を取り出すことができるのかもしれません。
かわいいという思いから、ぎょっとする驚きへと変わったときの「自分の心の動き」をはっきり手に取るように感じられるのも、アートのおもしろさだと思います。
田代葵さん:行動と記録と、人をかたち作るもの
もう一人の参加アーティスト「田代葵」さんの作品はこちら。
中央の平面作品の表面、ふわふわヒラヒラしているのは、「レシート」です。
もとはこの何倍もある、壁一面くらいの大きさだったそうですが、保管の関係でこのサイズになったという話でした。
「壁一面」いっぱいのサイズだったら、また受ける印象が変わったと思います。
下の写真は、レシートと金糸で成り立つ立体作品。
商品やサービスを購入した「生活の記録」であるレシートをひたすら織り上げることでできたこの作品には、作者の「暮らしの痕跡」が残っています。
レシートに残るのは購入や消費など「表面に見える」ものですが、どのようなことに興味があって、どのような生活をしているのか、どんなものを買っているのか、その人をつくる要素になるものです。
一人のレシートを追えばその人の行動が見えてくる、大勢のレシートを追えば世の流れが見える、「行動の履歴の象徴」のようなものだと思います。
「中身が空っぽ」ということは、必ずまわりを形づくる「表面」があるということ。
展示されていた立体作品も中空のものでしたが、レシート自体も「表面」を表している、EMPTY INSIDEなものだな、と思いました。
「EMPTY INSIDE(エンプティ インサイド)」とは
「EMPTY INSIDE」を見ながら、24年前私が多摩美術大学の1年生だったころに出題された、「中空(ちゅうくう)を考える」という課題を思い出しました。
中村洋子さんは、多摩美術大学の私の恩師の奥様なのですが、その恩師の中村錦平先生に出された課題です。
私は工芸学科の陶コースを専攻したのですが、「陶芸」というのは基本的にはかたまりで焼くと爆発してしまうので、ある程度の厚さまでで作ります(例外もあります)。
陶芸で立体のものを焼き上げるときも、基本的には中は空っぽの、中空状態になります。
「陶芸≒中空」であることから、「『中空というもの』について考えて、作品に表現する」という課題が出されたのでした。
24年後の現在、「EMPTY INSIDE」という同じ意味の言葉、その共通項がある作品に対面し、ふたたび「中空」について考えました。
今の私にとって「中空」とは、「中身が空っぽなもの」というよりは、「表面があるもの」という認識になっています。
「EMPTY INSIDE 展」でも「作品の表面に意識がいく感覚」を感じました。
作者の意図と私の受け取り方は全く違うものかもしれないですが、きっと、こうしてあれこれ考えるきっかけを与えてくれるのも、アートの力なのだと思います。
ぜひギャラリーを訪れて、「EMPTY INSIDE」の作品に、世界に、足を踏み入れていただければと思います。
「EMPTY INSIDE」
会期 2024.10.19~11.16
開廊 12:00~19:00 日月祝休廊
出展作家 中村洋子さん、池田ひとみさん、田代葵さん
東京・神楽坂駅から徒歩5分の場所にある「eitoeiko」にて
この記事を書いたのは・・・堀江麻衣
多摩美術大学で陶芸を4年間専攻した、2児の母。「片付けの伝道師:安東英子先生」認定の美しい暮らしの空間アドバイザー。55㎡の狭小中古1戸建てをDIYしながら暮らしています。美大卒業後は、12年間学習塾で英語と国語を教えていました。