日本の現代アートがおもしろい!陶芸家・中村錦平先生の作品を訪ねて「高橋龍太郎コレクション」に出会った日
美術大学出身のSTYLEライターの堀江麻衣です。「東京都現代美術館」で行われていた、「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」を先日見に行って参りました。これがもう、本当におもしろかったんです。「日本のアート、すごいかもしれない!」とワクワクした、この日のことを書かせていただきます。
東京都現代美術館へ行ったわけ
今回「東京都現代美術館」へ行ったのは、美術大学時代の恩師の作品が展示されているという話を、友人から聞いたからでした。
私は東京都八王子市にある多摩美術大学で4年間陶芸を専攻したのですが、そのときの恩師が、中村錦平(なかむらきんぺい)先生です。
中村錦平先生は多摩美術大学の名誉教授であり、芸術選奨文部大臣賞や、文化庁長官表彰を受けられている、世界的に有名な陶芸家です。
こちらが、恩師の中村錦平先生です。
*写真の掲載許可はいただいています。
2024年10月に、奥様の中村洋子さんのアート展示に伺った際に撮影させていただいた写真です。
中村洋子さんのアート展示や、お二人のご自宅にお伺いしたときのことを以前記事にしていますので、併せてお読みいただければと思います。
予想と違った!「高橋龍太郎コレクション」とは
東京都現代美術館で開催されていたのは「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」という企画展だったのですが、「高橋龍太郎さん」というひとりのコレクターが集めた作品の展示でした。
この日まで私は高橋龍太郎さんのことを知らなかったので、「個人で集められるくらいの規模」だとばかり思って出かけていきました。
ところが、企画展示室に入り一歩一歩と前へ進むにつれ、自分の予想と大きくかけ離れた展示だということに、だんだんと気が付いていきました。
確かに高橋龍太郎さんがお一人で集めたコレクションではあったのですが…、私の想像をはるかに超える規模と、エネルギーだったのです。
まず、展示されている作品が、どれもこれもおもしろいのです。
圧倒されたり、見とれてしまったり、くすっと笑えたり、ぎょっとしたり…
不気味さを感じたり、ホッとしたり、かわいいなと思ったり、嫌悪感を抱いたり、所有欲を刺激されたり…
展示を見ている間中、心が動きっぱなしで忙しかったです。
どうやって保管しているのだろう…?と思ってしまう巨大な作品や
個人的に、いいなぁ!と思った作品など
展示を見ている間中、ワクワク、ドキドキとしていました。
高橋龍太郎さんは日本の現代アートのコレクターで、「高橋龍太郎コレクションの展覧会」は、国内外の美術館で何度も開催されてきたそうです。
私にとっては、「現代アートのコレクターがいる」というのがまず大きな驚きでした。
現代アートというと、一部の有名な方の作品には高い値段がついても、一般的にはお金にはならない…というのが、私が抱いていたイメージだったからです。
小さめの作品であれば個人で購入する方もいるかもしれませんし、大きくても美術館が買い上げることはあるかもしれません。
でも、個人でコレクションする方がいるというのは、本当に予想外でした。
しかも、高橋龍太郎さんの場合は、ものすごい数とボリュームの作品を集めていらっしゃいます。
今回の企画展でも、「おもしろい作品だけど、これ、買ったんだ!?」と驚いてしまう、お金に変えるには難しそうな作品もありました。
高橋龍太郎さんは、有名な方の作品もコレクションされていますが、全く無名の学生の作品なども購入されているとのこと。
投資やお金目的でコレクションしているわけではないから、こんなにもおもしろい作品が集められるのだろうと感じました。
展示されていた作品自体もすごかったのですが、なにより高橋龍太郎さんのアートへの情熱にあてられて、圧倒され、「日本の現代アートに、こんな力があるなんて!」と熱いものが込み上がってくる展示会でした。
中村錦平先生の作品
「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」を進んでいくと、後半の方でやっと恩師の中村錦平先生の作品に出会えました。
こちらは「日本趣味解題・シリーズ」という代表作の、初期の作品のひとつだということです。
下の写真は今回の展示ではありませんが、この「日本趣味解題・シリーズ」の作品です。
中村錦平先生から直接、この作品が高橋龍太郎コレクションに入ることになったいきさつをお聞きしました。
この作品は、「日本趣味解題・シリーズ」を作り始めたごく初期のもので、もともとは、あるバーのオープンに合わせて依頼を受けて制作したものだそうです。
しかしそのバーがなくなってしまい、バーの店主が手放したものを、最終的に高橋龍太郎さんが購入されて現在に至るということです。
中村錦平先生の、初期のこの作品の魅力を高橋龍太郎さんが見抜いたからこそコレクションに入り、今こうして美術館で私が直接目にすることができるのだと思うと、感慨深いものがあります。
もしバーの店主が手放した後だれか他の個人に買われていたら、公に出てくることは無かったかもしれません。
中村錦平先生の作品に対峙すると、胸の中心のところをぐいっとえぐられるようなパワーを感じて、「これが日本の陶芸を変えてきた、引っ張ってきた勢いと力なんだ」と感じずにはいられません。
アート作品は、やはり実物を目の前にすると、受ける印象が全く違います。
力のある作品を、同じタイミングでこんなにも見ることができた「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」は、これまで訪ねたどの展示よりおもしろく、心を揺さぶられる企画展でした。
日本のアートはおもしろい、そしてまだまだもっとおもしろくなる、そんな未来への希望が湧いてくる一日でした。
この記事を書いたのは・・・堀江麻衣
55㎡の狭小中古1戸建てをDIYしながら暮らす2児の母。「片付けの伝道師:安東英子先生」認定の美しい暮らしの空間アドバイザー。多摩美術大学で陶芸を4年間専攻。美大卒業後は、12年間学習塾で英語と国語を教えていました。