陶芸家:中村錦平先生と中村洋子さんご夫妻に招かれて 「美しい暮らし」に足を踏み入れる

2023/04/14
  • 美大卒のやりくりママ。関東在住・男女2児と夫の4人家族。55平米の狭小中古一戸建てをDIY中。もっと見る>>

皆さまこんにちは、美術大学出身のSTYLEライター堀江麻衣です。先月、美術大学時代の恩師 中村錦平(なかむらきんぺい)先生と中村洋子(なかむらようこ)さんご夫妻にご招待いただき、ご自宅へ伺ってまいりました。本日の記事は、錦平先生の言葉から感じたことと、その日に出会った「美しい暮らし」についてです。

[日本陶芸]の変革者/論者:中村錦平先生 金属メッシュアーティスト:中村洋子さん 

私は多摩美術大学工芸学科の陶コースを卒業しています。「陶芸」コースではなく「陶」コースなのは、アートの素材として陶を扱うコースのため。大学時代は陶器に限らず、焼き物を素材としてオブジェ制作をしていました。

多摩美術大学でお世話になった恩師が、中村錦平先生です。卒業してからもうすぐ20年経ちますが、今でもアドバイスをいただいたり、学ばせていただくことが多いです。

サンキュ!STYLEの前身サイトの口コミサンキュ!時代、中村錦平先生についての記事をいくつか書かせていただきました。

多摩美術大学名誉教授の中村錦平先生は、陶芸の大家の長男として生まれながら、その伝統を打ち破ってきた方です。
芸術選奨文部大臣賞に文化庁長官表彰。
国際陶芸コンクールの審査員を務め、世界的に有名な方です。
テレビでも特集を組まれたり、何度も雑誌や新聞にコラムを書いたり、作品が雑誌に載ったりすることは多数、著書も出されています。

奥様の中村洋子さんは、金属メッシュのアーティスト。
「人間より大きなサイズの蜘蛛」の野外展示や、「うごめく焼き付けメッシュが部屋の中で湧き上がるような形態」の展示、他にも金属メッシュと異素材を組み合わせたアクセサリーも制作されています。

中村洋子さんのアート展示については一つ前の記事で書いておりますので、ぜひご覧いただければと思います↓

今回お家にお邪魔した際、洋子さんが制作されたアクセサリーをいただきました。

まさか手作りのアクセサリー作品をプレゼントしていただけるだなんて思ってもいなかったので、心臓がバクバク…。ドキドキが止まらない…!
金属メッシュと異素材を組み合わせたブローチです。胸元に付けると華やかで、シャキッと背筋が伸びます。鏡で見てもとてもオシャレで、なんだかステキな大人になったような誇らしい気持ちに。

家に帰ってから夫に見せると
「うわ、かっこいい!
なんだろう、男の俺が見てもかっこいいよ。
アクセサリーっていうか、アートだよね。
洋子さんのいつもの規模で作ったら迫力すごいだろうなぁ、大きいバージョンも良さそうだなぁ…
これ、時計の裏蓋を組み合わせているのかな?
歯車の作品ってあったりする?
歯車のもあるなら、見てみたいなぁ。
こんなかっこいいアクセサリー、俺初めて見たかも。」
と、「人間より大きな蜘蛛の野外展示」を一緒に見た夫も興味津々でした。

後日洋子さんに確認すると、確かに時計の裏蓋で、歯車を組み合わせたアクセサリーも制作されたとのこと。
夫は見た瞬間に気が付いたのに、私は全く気が付かず…情けないかぎりです。
素材の詳細には気が付きませんでしたが、アクセサリーとしての魅力と作品としての力強さはしっかり感じていました。
ありがとうございます、大切に使わせていただきます!!

数年ぶりのご自宅訪問

1年位前にお手紙をやり取りしたときに「マスクなしでOKになったらお会いしましょう」とお声がけいただき、今回数年ぶりにお会いできました。
こちら、中村錦平先生と洋子さんご夫妻。

*写真の掲載許可はいただいています。

いつお会いしてもキラキラとしていて、ステキなお二人です。
目が輝いていて、全身から放たれるエネルギーとオーラを感じるのです。

ご自宅に上がらせていただくと、さっそく洋子さんがお茶を点てて下さいました。
しかも、錦平先生の作られた抹茶茶碗で入れてくださり、好きなのを選んでいいとのこと。
パワフルな魅力を感じた、黒っぽい抹茶茶碗を選ばせていただきました。

下の写真右側の和菓子が載っているお皿は、錦平先生のお父様で、有名な陶芸家の「中村梅山(なかむらばいざん)」さんの作品。
錦平先生の抹茶茶碗とお父様の中村梅山さんの器でお茶の時間なんて、こんな贅沢なことがあっていいのかしら…!

和菓子は多摩美術大学の卒業生の方が、ご実家の和菓子店で作られたものを持ってきて下さいました。
「山笑う」という「春の山の明るい感じを表す季語」が名前についた和菓子で、下から順に山の茶色、木々の緑、花の白を表現しているそう。
はじめ、大事に味わおうと、ちまちま小さく切って私が食べていたら
「大きく切って、3口くらいで召し上がって下さい」
とのアドバイス。
言われた通りに黒文字で大きく切って食べてみると、風味や食感の違いが混ざり合ってなんともおいしい…!
お菓子によって口に入れるのに適したサイズが変わるなんて、考えたこともありませんでした。

抹茶茶碗の良し悪しを見極めるには

表参道のスパイラルというビルにある、ギャラリーに隣接したカフェレストランにお食事に連れて行って下さったのですが、そのギャラリーで偶然「美濃桃山陶 令和の景色」という陶芸の展示が開催されていました。

抹茶茶碗もいくつか置いてあったのですが、錦平先生から印象的な一言が。

「僕はね、抹茶茶碗というのは『存在感』があるか無いかだと思っている。
こう、四角い茶室の中で抹茶茶碗が中心に来るわけだから、そこで存在感を放てるかどうか。
『なんだ、この程度のもので飲むのか』となるか『おお、これで飲むのか、いいなぁ』となるか。
そこを見ているよ。」

という言葉です。
錦平先生と一緒に展示を回れるだけでもありがたいのに、「作品を見るときの指針」まで聞けるなんて、本当に幸運だと思いました。

私は茶道の経験が無いので抹茶茶碗というものは無意識に避けて通っていたのですが、「存在感があるかないか」だったら判断できそうです。

知識の有る無しに関わらず自分の見たまま、思うままでよいのなら、私でも抹茶茶碗について語れるかもしれません。
錦平先生のご自宅でお茶をいただいた抹茶茶碗は、「存在感」がすごかったです。

無作為に作ったようなごつごつした岩の趣がありますが、不思議と手にしっくりきました。
堂々としていて小さなことは意に介さない、活力を感じる構え。
エネルギーのある自己主張はするけれども、他を排除するわけではなく、ただただ「自分というものをもっている」という感じ。
圧倒されるような力強さを感じた抹茶茶碗でした。

以前錦平先生の著書を拝読した際、他人のフィルターを介さずに「どれだけ『自分の目』でものを見て考えるか」が重要なことなんだな、と感じたことがありました。
今回の「抹茶茶碗は存在感」の話も、通ずるところがあると思います。

大学時代は「講評会」といって、先生方や同級生から自分の作品に対して意見をもらう授業があったのですが、「錦平先生は作品と真っすぐ向き合ってお話しされている」といつも感じていました。

陶芸を始めたばかりの無名の学生の作品に対してでも、真摯に向き合い言葉をくれる。
私がいたのは「陶」コースでしたが、異素材の作品でも、映像作品でも、パフォーマンスを発表しても、錦平先生はジャンルが違うことなど問題にもしませんでした。

以前書いたのですが、私のブログに対しても意見をくださり、「ブログという作品への講評」のように感じました。

伝統陶芸でも現代アートでも、映像でもパフォーマンスでも、私の書く生活ブログでも、ジャンルが何であろうと「錦平先生の目」で真っすぐ見られて、感じたことを論理的に、納得できる言葉で伝えて下さる。

この「他人のフィルターを介さずに自分の目で見て、自分の感じたことを表現できる力」を、つけていかなければならないと感じました。
自分の感じたものを、探っていこうと思います。

ご自宅で出会った 美しい暮らし

以前お伺いしたときに、中村錦平先生のお家のことをブログに書かせていただいたのですが↓

錦平先生のご自宅は、建築家の齋藤裕(さいとう ゆたか)さんが設計され、このお家で日本建築家協会新人賞を受賞されたとのことです。

また、雑誌「モダンリビング」に、建築史家/建築家/東京都江戸東京博物館 館長の藤森照信(ふじもり てるのぶ)さんが選んだ「住んでみたい名作住宅 13軒」の特集で掲載されています。

家の中に屋根まで吹き抜けの真竹の庭があり、ぐるりと囲むようにお家が設計されています。
リビングにいてもダイニングにいてもこの庭を眺められる贅沢な空間。
内壁はツヤのある黒漆喰で、家の各所に錦平先生の作品が置かれ、ジョージ・ナカシマ(米)作のウォールナットの家具がゆったりと配置されています。
お家の写真は上記リンクの記事にありますので、そちらをお読みいただければと思います。
私の写真の力不足が残念でならないのですが、本当に美しいお家です。

錦平先生と洋子さんの暮らしが美しいと感じたのは、家の設計のためだけではありません。
余分なものが全く置かれておらず、選び抜かれた調度品で丁寧に暮らされているからです。
お抹茶の後に白湯を出して下さったのですが、すっと差し出されたお湯差しまで、上品な手作りの品でした。

私が先月「美しい暮らしの空間アドバイザー」という片付けの資格を取得し、その仕事を始めるという話をしたら、興味を持って聞いてくださいました。
そこから片付けや暮らし方の話へ。

「簡単だよ。ものを減らして、使ったらしまえばいいだけだよ。」
と錦平先生。

いや本当、本当におっしゃる通りだと思います。
でも、錦平先生のおっしゃるその「簡単」が、なかなか難しいところであります!

錦平先生と洋子さんはもうず~っと当たり前に「選び抜いたものだけに減らし、大切にものを使い、使ったらしまう」という暮らしを続けていらっしゃるんだなと思いました。
いつ伺ってもバシッと家の中が片付いて、ピカピカなんです。

今回もいただいたブローチを鏡で見るために寝室へ通してもらったのですが、そちらもキレイ。
キッチンもダイニングも玄関も、どこもかしこもキレイなんです。
家中いつどこを見られても美しいって、本当に素晴らしいことです。

「錦平先生のお家を建築された齋藤裕さん」の建てたお家をいくつも見学された方の言葉が、とても印象的でした。

「齋藤裕さんによる素晴らしい家を、素晴らしいままで維持しているのは中村錦平先生以外に知らない。」
という言葉です。

その方が訪ねたほかの住宅は、住宅の素晴らしさを生かし切れていなかったというのです。
物があふれていたり、出しっぱなしになっていたり、管理が行き届かなくなっていたり・・・

家は建築そのものよりも、どう暮らすかにかかっているのだと、久しぶりにご訪問して改めて感じました。
片付けの仕事を始める前に至高の空間を見ることができ、「美しい暮らし」のシャワーを浴びたようでした。

錦平先生と洋子さんお二人の暮らしに触れて、心の中に鮮明な美の世界が広がった一日。
この美しいイメージを大切にしながら、「自分の目で見て、考える」ことを実践していこうと思います。

この記事を書いたのは・・・【美しい暮らしの空間アドバイザー】堀江麻衣
口コミサンキュ!ではトップブロガーとしてブログを執筆。55㎡の狭小中古1戸建てをDIYで改修しながら暮らしています。小6の男の子と5歳の女の子の2児の母。多摩美術大学で陶芸を4年間専攻し、美大卒業後は12年間学習塾で英語と国語を教えていました。

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