2018/08/04 22:35
私は、若い頃から字が汚いのが悩みでした。

特に嫌だったのが、男の字だと勘違いされること。

大学の同級生男子に私とそっくりの筆跡の人がいて、よく「どっちがどっちか分からん」などと言われて落ち込んでおりました。

その当時の筆跡が分かるものはないかと探して、ようやく見つけたのがこちら。

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大学4年生の時の教育実習で、指導教諭に提出したレポートの一部です(内容は気になさらず)。

書きなぐってなどはいません、時間はたっぷりあったのでこれでも丁寧に書いたつもりなのです。

当時は「綺麗に書けた方だな」などと思っていましたが、今見ると癖が強く読みにくいですよね。

それでもどこかで「字が汚いのは仕方ない」と思っていたのですが、転機が訪れました。

20代半ばで学校教諭となり(それまではいろいろ寄り道しています)、中学生や高校生に国語を教えるようになってから。

「先生、字汚い〜」「黒板、読みにくいです」などと率直な生徒達から言われ、これはまずいなと思い始めました。

親にも、「字が汚いから何とかした方がいい」などと言われて「じゃあどうすればいいの?」と聞いたところ、勧められたのがユーキャンのペン字講座です。

半年間くらいだったかと思いますが、テキストの手本を見ながら字を一生懸命真似して、定期的に提出する課題をこなしたところ、確かに少し字が変わりました。

今では、息子の学用品に書いた名前などを指して「綺麗な字」と言われることもあります(さほどでもないのですが)。

字が汚いのが悩み、という人意外と多い気がしますね。

私は両親が2人とも達筆なので「大人になったら自然と字がうまくなるものなのだ」などと思ってましたが、そんなことはないのです。

やはり、練習が必要。

とはいえ、どんなに頑張っても昔からの癖というものはある程度残ってしまうような気がします。

でも、ものは考えようで「書道の教科書のような完璧な字を書けなくてもいいではないか。それなりに読みやすくさえなれば。ちょっとした癖は、これまで頑張って生きてきた勲章だよ」と思うと楽に。

こう考える根拠として私の記憶の中にずっとあるのが、大学1年生の時に見たある人の筆跡なのです。

再現してみました。

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「読めないじゃん」という苦情は一切受け付けません。

こちら、お察しの通り昔の人の筆跡をまねたものです。

Aは藤原為相(ふじわらのためすけ)という貴族が書いたもの(とされているもの)で、当時の平均的な字かなという印象。

Bは藤原定家(ふじわらのさだいえ、「ていか」とも)という人の字です。

質問ですが、どちらが読みやすいと思いますか?

人にもよると思いますが、私はBの方が読みやすいです。

先日、ヤギコさんにお会いした時「Bの方が読みやすいですよね」という話をしていたのでした。

時間が限られていたこともあり誘導してしまったので、念のため他の方達にも確認を。

やはり、「Bの方が読みやすい」との答えでした。

「Bは近代的な感じ」「綺麗に見えるのはA」というご意見も。

藤原定家は有名な歌人で、『小倉百人一首』を選んだことでもよく知られています。

しかしその前に優秀な学者で、『源氏物語』などの古典を研究し後世に大きな足跡を残しました。

Bの文章は紀貫之直筆の『土佐日記』を定家が写したものです。

作者直筆の本を写した本というのは珍しく(当時はどんどん複製が作られていたので写しの写しのそのまた…みたいな状態が普通)、より原典に近いということで真っ先に大学で習ったのでした。

読み解くための資料として古い字の見本だらけの赤い冊子を買わされ、解読しろと言われたわけなのですが。

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まず一目見た印象は、「うわあ、この人字が下手だなあ」というもの。

でも実際に解読作業を進めていくと、「読みやすいな、ありがたいな」と思い始めました。

当時は連綿とした続け字で、小川の流れるようにさらさらと書くのが美しい字という認識でした。

しかしながらそういった続け字はどこで切れるのか分かりづらく2つの字が1つの字に見えるなどして、解読が大変なのです。

それに対し定家の字は1つ1つの字がぶつぶつと切れて美しくはないのですが、字の大きさもほぼ均等、癖があるがゆえに1つ1つの字が主張している感じで分かりやすく感じられます。

ちなみに、Aは『伊勢物語』の冒頭。

物語の写しなので、多くの人に読まれることを前提としているためか、これでもまだ実は読みやすい部類に入ります。

三蹟の1人である藤原行成の手紙か何かの一部を教科書で見たことありますが、それはAよりさらに読みにくく「何じゃこりゃ」でした。

細い筆先で散らし書きなどされているものに関しては、「やめてくれ」という感じ(ある程度は読めますよ)。

要は、汚い字=読みにくい字、ではないということ。

これに気付いた瞬間、私の肩から力が抜けた気がいたしました。

そういえば、自分が高校生の頃に国語を教えていた達筆な先生は、「読めません」とよく生徒に言われていましたっけ。

板書は、綺麗に書くことより読みやすく書くコツを見つけることが大事だったのでした。

そのことについては、ヤギコさんの記事で語っていますのでぜひご一読を。

先程のAとBの書について、読めないままでは気持ち悪い人もいると思うので、解答をどうぞ。

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拡大して見たほうがいいかもしれません。

見慣れてくると、Bも味わい深いような気がしてきませんか?

定家は自分で字が汚いことを認識していたようで、『土佐日記』を写し終えた後でその奥に「自分は年で目も悪いから、うまく写せたかどうか自信がない」などと言い訳していたと習いました。

いや定家さん、あなたの書いた字は他にもたくさんあるらしいけど、みんな似たようなものよ?という突っ込みはさておいて。

面白いことに後世になるとこの独特の書風が「定家様(ていかよう)」と呼ばれ、多くの人に愛されるようになってきます。

美しさの概念は少しずつ変わるものだし、もしかしたら今汚いと思っているあなたの字も、他の人から見たらそうではないかもしれませんね。

さて、最後の読み方付き画像を拡大してご覧になった皆様へ。

「Bの最初の字、どうしても『を』に見えないんだけど、っていうか他にもそういう字ある!」と思われたのではないのでしょうか。

この「どうしても読めない平仮名」の多くは「変体仮名」と呼ばれるものです。

「変体仮名」については次の記事で解説しますので、興味のある方は心してお待ちくださいませ。

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コメント(2)
たなみーさん、コメントありがとうございます。

硬筆書写コンクール金賞って、すごいなあ。小学生って、先生から細かく習うせいなのか、割とみんな癖のない字を書く印象があります。私も、小学生時代の方が中高生時代よりましな字を書いていたような気がw

筆圧が弱くなるの、なんででしょうね。書く量が増えてさらさら書かなくてはいけなくなるからでしょうか。

急いで書くと自分でも読めないこと、ありますよね!私はいろいろ省略し過ぎて暗号文みたいになっちゃうこともありますよ。

不思議な字、って気になります。見てみたいなあ。そんな風に言われる人、あまりいないと思いますよ。習字が得意なの羨ましいです。私、毛筆はよく分かりません。

速さと美しさを両立できるなら、それで食べていけますよ。ゆっくり丁寧に書いて綺麗な字なら良いことにしましょう^^
by danngo 2018/08/05
こんにちは。
私も手書き文字にコンプレックスがあります。
小学生時代は、硬筆書写コンクールで金賞4年連続とかだったのに…と、普段、ほめられる…というコトがないので、自慢させてください(笑)
が、しかし、今は見る影ナシです。
中学高校くらいからですかネ〜、サッサか筆圧が弱くなったというか。
逆に、小さい頃は鉛筆タコができるくらいスゴい筆圧でした。
今は最初は丁寧に書くんですが、せっかちな部分があるのか、すぐミミズのなんたらになり、たまに自分も読めない時が…。
昔、同級生に「不思議な字」と言われたコトあります。
きたなくもないし、キレイでもない…みたいナ。
習字は割と納得行く文字が書けるんですがネ〜。
父は硬筆なのに習字?みたいな文字、母は丸文字からピシッと文字と自在に変えて書けたり…なんですが、私はう〜ん…な現在です( ̄∀ ̄)
さっさか、かつ、丁寧できたらいいんですケド…。
by たなみー 2018/08/05