2018/10/05 06:00
「淑女に捧げる古典文学」シリーズ、2回目です。

1回目の記事はこちら。
https://39.benesse.ne.jp/blog/2259/archive/521

あまりにも読む人が少なければ1回限りにしようかとも考えていたのですが、予想をはるかに上回るコメントをいただいてしまい、「次回も楽しみにしています」などと言われて引っ込みがつかず。

2回目は、日本人なら誰でも知っているこの作品についてです。


【竹取物語 〜伝承を乗り越え飛翔した、遂げられぬ愛の物語〜】

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『竹取物語』(以下『竹取』)と言えば、『かぐや姫』の名で多くの子どもに読まれている、代表的な日本の昔話ですね。

「日本最古の物語文学」などと古文の授業で習った人もいるのではないでしょうか。

そもそも物語文学って何なのでしょう。

ストーリー性のある話なら、『風土記』などにも多くのものが載せられています。

ただしそれは地方に伝わる民間伝承を記録しただけのもので、「説話文学」などと呼ばれるもの。

自然発生的にできて広まった特定の作者が存在しない伝承系の昔話は、物語文学ではないのです。

『竹取』も、もともとは民間伝承だったと考えられています。

『今昔物語集』『海道記』などには古い形の『竹取』が収められているのですが、とても短く話の内容も現在知られているものとは違っています(かぐや姫がウグイスの卵から生まれるとか)。

『万葉集』に収められた『竹取』の原話では、かぐや姫は登場せず、竹取の翁と天女だけ出てきます(だからこそ「かぐや姫の物語」ではない)。

『竹取』は竹取の翁やかぐや姫にまつわる複数の民間伝承を集め、「天人女房譚(てんにんにょうぼうたん)」「貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)」「致富長者譚(ちふちょうじゃたん)」「難題求婚譚」「語源譚」といった複数の話型を複雑に組み合わせて作られたものなのです。

つまり、作者の手が大きく加えられているというところが伝承の文学と異なるわけです。


1.五人の求婚者

『竹取』の冒頭部分は有名なので省略して、五人の求婚者達が登場するところから書きます。

五人の求婚者達の話は「難題求婚譚(女が男に難題を出し、その難題を解決した男と女が結婚する話)」の一種で、そこに語源譚がセットにされているのが特徴です。

ただし、一般的な難題求婚譚は求婚者が三人のことが多くそのうちの一人が難題を解決し女と結婚するのに対し、かぐや姫は誰とも結婚しません。

『今昔物語』にある伝承の『竹取』と比べても、求婚者の数や難題として求められる品物に差があります。

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(優曇華の花は、実は蓬莱の玉の枝だったとする記述が物語中にあります


現在の『竹取』で求められている宝物が、三人目まではインドや中国に存在するものなのに対し、残りの二人のものは日本で探せるもの、しかも動物つながりであることに注目しましょう。

これは、先の三人の話が伝承を参考にしたのに対し、あとの二人の話は完全なる作者の創作だと考える根拠となる部分です。

かぐや姫が求婚者に難題を出す場面で、三人目に「残りのもう一人」と語りかけているのも、原話の求婚者が三人だった証拠となっています。

また、求婚者とかぐや姫の和歌の贈答に着目すると、先の三人の話では求婚者から先に和歌を贈っているのに対し、四人目の話では和歌の贈答が全くなく、五人目の話ではかぐや姫の方から和歌を贈っています。

というのも、五人目の求婚者である石上(いそのかみ)の中納言は燕の子安貝を探すため高いところにあるツバメの巣のそばに自ら上り、誤ってそこから落ち重体となってしまったため。

かぐや姫の歌は、いわば病気見舞いの歌だったわけです。

石上の中納言はそれに返歌を書いたと同時に絶命。

この話を聞いてかぐや姫が「すこしあはれ」と思った、とあります。

「あはれ」というのは現代語には訳しにくい、悲喜こもごものさまざまな感情を包含した人間らしい心の動きのこと。

この場合は憐憫の情となるわけですが、今まで求婚者達に同情などしなかったかぐや姫に変化が訪れたと言えそうです。

では、かぐや姫の心を動かしたのは何だったのでしょうか。

先の三人の求婚者は難題の攻略に際して嘘や策略、他人任せにするなどの方法を用いているのに対し、後の二人は最終的に自分で行動し真っ向勝負で難題に挑みます。

四人目の求婚者は難題に体当たりの末玉砕し、「かぐや姫なんか大嫌いだ」となって終わり。

五人目の求婚者は瀕死の状態の中でもかぐや姫を想い続けていました。

石上の中納言が持つひたむきさや一途さが、かぐや姫の心にさざ波を立てたのでしょう。

五人目の求婚者は先の三人とは明らかに違っていたわけですが、その中間に存在するのが四人目の求婚者。

おそらく、いきなり四人目に全く毛色の違う求婚者を出すと唐突な印象になるため、緩衝材的な存在として別の求婚者を間に立てて五人にしたのではないかと思っています。

石上の中納言は難題を達成することはかなわなかったものの、かぐや姫の心を変化させる契機を作ったということで、難題求婚譚の実質的な勝者となり得たのです。


2.帝との交渉

五人の貴公子達の求婚が破断し、その噂を聞いてかぐや姫に興味を示したのが時の帝です。

まずは容貌を確認させるため使者を派遣しましたが、かぐや姫は会うことを固辞。

すると帝は、翁に五位の位を与えることを条件に入内を求めてきました。

五位というのは貴族の位なので、金銭的に豊かだったものの平民に過ぎなかった翁にとって、この上ない名誉となります。

翁は狂喜してそのことをかぐや姫に伝えますが、かぐや姫は「入内しません。もしさせるなら、私は死にます」と強い口調で拒否。

この態度を見て翁もさすがに諦め、そのことを帝に伝えると、帝は「狩りに行くふりをして出かけ、こっそりかぐや姫の姿を見よう」と翁に相談しました。

計画通りに帝がかぐや姫の部屋を覗くと、部屋中に光が届くほど輝いている女性がいて、「この人に違いない」と帝は確信します。

帝がかぐや姫の袖をとらえると、かぐや姫は「私はこの国の人間ではないから連れて行けないでしょう」と言い、帝が「そんなことはないだろう」という態度でいると、かぐや姫はさっと「影」になったそうです。

「影」とは現在とは違い「光」と同じような意味があり、「輝く」「鏡」などの語と同じ語源を持つとされています。

おそらく、「ぼんやりと光って見えてはいるが実態のない存在」、つまり見ることはできても触れない状態になったのでしょう。

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そこで帝はかぐや姫が普通の人間ではないと考え、「もう連れて行かない。元のお姿にお戻りください」と伝えるとかぐや姫は元に戻りました。

ここで、これまで高圧的だった帝の態度が一変し、かぐや姫に敬語を使っているのです。

帝はかぐや姫の姿を見て、「この人は侮ってはならない」と直感的に感じ、それが尊敬の念に変わったのでしょう。

その後帝はかぐや姫を置いたまま帰り、以降三年間の文通。

この「文通する」という設定は、別の本に見える『竹取』にはないものです。

『今昔物語』では帝がかぐや姫と出会った直後に昇天、『海道記』では帝とかぐや姫が契った後に昇天したらしく、他の本では三年間入内していたなどと書かれているものもあるらしいです。

文通は、肉体的な交渉を離れた精神的な交渉で、四季折々の景物に即して歌を詠み合い情を交わし合うという新しい恋愛スタイルが成立したのでした。

3.かぐや姫の昇天

昇天のシーンも有名な部分ですが、ここには『竹取』において最も大切なことが書かれています。

月を見て嘆き続けるかぐや姫が、真相を告白するところ。

かぐや姫は、「月の都(天界)の人は死ぬことも老いることもなく、悩み事もない」という天人の実態を語り始めます。

説明されている月の都と人間の世界(下界)の関係性を図示すると、以下のように。

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最後に書いた「非情」と「愛」の二項対立こそ、『竹取』が最も伝えたかったところではないかと思っています。

かぐや姫は昇天の間際になって翁と嫗への手紙、帝への手紙の二通をしたためますが、その時天人の手の中には天の羽衣と不死の薬があります。

『竹取』の中では、天の羽衣が心を天人(悩み事のない状態)に変えるもの、不死の薬が体を天人(不老不死の状態)に変えるもののようです。

かぐや姫が帝への手紙の中で詠んだ歌がこちら。

今はとて 天の羽衣 着るをりぞ 君をあはれと 思ひいでける

今はこれまでと天の羽衣を着る時になって、あなたのことを「あはれ」と思った―ここでの「あはれ」は帝への何とも言えない慕わしさ、しみじみとした情愛を表現した言葉だと思われます。

『竹取物語』の中でかぐや姫が「あはれ」と思ったとある記述は、五人目の求婚者が死んだ時と帝との別れの時の二回のみ。

最初は他の天人と同じく人情を解さなかったかぐや姫が、下界の人間とのかかわりの中で少しずつ愛を知っていく、そのことがこの「あはれ」という言葉から読み取れるのです。

帝は歌とともに贈られた不死の薬を焼かせる時、次の歌を詠みました。

あふことも なみだにうかぶ 我が身には 死なぬ薬も 何にかはせむ

あなたに会うこともなく涙に浮かぶようなつらい我が身にとっては、死なない薬が何にできようか、何にもならない―帝にとっては不老不死など望みではなく、かぐや姫を失った悲しみの中で生きる辛さが切々と歌われています。

かぐや姫が「天の羽衣」という天人アイテムについて詠んだのに対し、帝は「不死の薬」というもう一つの天人アイテムを詠み込むことで、この歌はかぐや姫への返歌という体裁になっているのです。

『竹取』を構成する要素となった「天人女房譚」は天女が下界の男と結婚して子を残した後昇天するという形が一般的で、その土地の権力者の祖先がその子であったとすることで一族の優位性を示す目的があったとされています。

かぐや姫は結婚や出産という過程を経ることなく、それらを全て拒否して昇天しました。

そこでかぐや姫と帝との間に生まれた愛という感情を描き、遂げられなかった愛の話として終わらせることで、伝承の枠を超えた「物語文学」として長く人々に読まれることになったのです。

『源氏物語』に「物語の出で来はじめの祖(おや)」と書かれている『竹取』は、愛をテーマにしたということにより、まさに日本最古の物語文学にふさわしかったと言えるのでしょう。 

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